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蜃都公式ホームページ>図書館/図書館
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+- 強者の憂鬱 -+
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作者:kily様(03/05/17投稿)
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そこは一言でいって、廃墟だった。
蜃都の外れ・・・本来ならば、住民を受け入れるための住居であった筈のそこは、
管理する人間がいなくなって久しいために、廃墟と化していた。
壁は崩れかけ、窓は枠すら残っていない・・・
そんな崩れかけの廃屋に俺が入ったのに、実は理由はなかった。
一言で言えば、なんとなく。
強いて言えば、何かに惹き付けられた、といったところか・・・
ともかく、入ってしまったのだから仕方ない。
そう言ってしまえばそれまでなので、俺は廃屋の中に目を向けた。
「・・・・ん?」
中にあったのは、崩れかけ剥がれた壁紙の他には古ぼけた机のみであった。
が、俺の目を引いたのはそれではない。
その机に置かれた手帳だ。
机の周辺だけはまるで時間が止まっていたかのように、(恐らく)当時のままの姿で残っており、
少しだけ、過去にいるような気にさせてくれた。
俺はその手帳から目を離せなかった。
そして、まるでその机が過去へ誘うかのごとく、俺は手帳を開いていた・・・・。
『私にとって彼は、友人であり、目標であり、羨むべき対象であった。
彼はいつでも壊羅山の霧さえも照らし出すのではないかと思うほど明るかったし、そして底抜けの楽天家だった。
いつも、行動よりも思考が先を行く私とは正反対であった。
それ故に、彼は随分と友人が多かったようだが、何故かいつも私と一緒だった。
私と彼が目指すものが似ていたからかもしれない。
「俺は誰よりも強くなりたいんだ。」
それが彼の口癖だった。
もちろん、私も自分の技を磨き鍛えることは好きだった。
だが・・・私にとって、敵と戦い経験を得ることは、それにより自分の魂の昇華を目指すのであって、
つまり、厳密に言うと強くなることは手段であり、目標ではない。
しかしながら、彼はただ強さのみを追及するのが目的だったようで、私はそれに一抹の不安を感じていた。
彼の腕前は、さすがに言うだけあって群を抜いていた。
戦いでは相手の出方を読むのが、最も大事なのであるが・・・
彼はその読みに絶大な自信を持っていた。
少々能力的に劣っていても関係なかった。
相手の出方を的確に先読みし、そこから繰り出される技の数々は、相手を圧倒した。
だが、彼の強さはそれだけじゃなかったと思う。
闘技場での戦いで負けた後、私に向かって「誰よりも強くなってやる」とよくこぼしていた。
そして、私を連れ、敵と戦いに幻空館に赴くのであった。
私にはその執念が彼の強さだったと思う。
一度だけ彼に聞いたことがある。
「何故、強くなろうとするんだい?」
そうすると、彼はちょっと呆れた顔し、
「そんなことに理由はないさ。」
というだけだった。
今思えば、『強さ』こそが彼の存在意義であって、確かに、それならば理由などない。
だが、私はその答えにひどく危ないものを感じた。
そして、恐ろしい予感がしていたのだが・・・・私にはどうしていいかわからなかった。
その予感はやがて現実のものとなった。
彼は強くなった。
それこそ、蜃都中の誰よりも・・・・
だがそこで問題が起きた。
彼と戦ってくれるものがいなくなったのだ。
彼の強さは最早蜃都中に知れ渡り、誰も彼と手合わせしなくなった。
そして、彼に媚びへつらう輩が多くなった。
何度も言うが、彼の存在意義は『強さ』であり、誰とも手合わせ出来ないということは、
『強さ』を確認できない、つまり存在意義を認識できない、ということだ。
初めの内は、まだなんとかなった。
だが、人は自分の存在意義を確認しながら生きているもので、それができない彼はすぐに不安定になっていった。
あれほど明るかった性格は一変し、思考は後ろ向きになり、よく私に愚痴をこぼすようになった。
「俺はただ強くなりたかっただけだ・・・・」
彼は目に見えて不安定になっていた。
髪はぼさぼさだったし、よく眠れないのか目の下を黒くさせていた。
彼の精神の最後の砦は私だったと思う。
私だけは、彼が強くなってもかわらず付き合ってたし、乞われれば手合わせもした。
だが、それも限界だった。
とうとう彼は、闘技場に現れなくなった。
闘技場には来ない、強い奴がいるかもしれない・・・
そう言うと、彼は蜃都中を徘徊した。
もちろん、私もそれに付き合っていた。
彼は異常ともいえる執念でそれを来る日も来る日も続けた。
そして・・・起こってしまった・・・
その時、私は彼の後ろを離れて歩いていた。
先程から、前方の物陰に誰か隠れているのがわかった。
もちろん彼にもわかっていたと思う。
気配を隠すことも満足に出来ず、こちらをうかがっているのだ。
恐らく、辻斬りだろう。
ここ蜃都の治安は最悪だ。
街中でも妖怪やら人斬りやらなんやらが出る。
だが、しかし、その時の私たちにはそのどれも危険なものではなかった。
事実、物陰に隠れている辻斬りの気配は丸わかりだったし、妖怪の類はやつらの方が避けて通る。
ともかく彼は気配なんて全く気にせずに歩みを進めていた。
そして予想通り、丁度彼が物陰を通り過ぎる瞬間に人影が飛び出してきた。
はっきり言って、彼に襲い掛かるその動きはむしろ緩慢であった。
相手の虚をついてなければ、子供でもかわせる速さだろう。
もちろん、私たちは虚などつかれていないので、何の問題も無いハズだった。
そう、あっさりかわして、当て身でも喰らわせればそれでおしまいだったのだが・・・
彼は素早い動きで迎え撃ち、問答無用で相手を斬り殺したのだ。
・・・・
私は凍りついた。
彼もまた、返り血を浴びたまま呆けていた。
そして・・・ひどく歪んだ顔で、私に向かって現実を否定するかのように首を振った。
だが・・そんな彼に私は声をかけれなかった・・・。
彼はいくら自分が襲われたからと言って、明らかに自分より劣るものを斬るような人間ではなかった。
『自分より弱いものを斬ったら、単なる人殺しじゃないか。』
それが彼の持論だったが、(私は賛成ではない。強かろうが弱かろうが、人を斬ったら人殺しだ)
その言葉通り、単なる人殺し、彼の忌むべき存在に、自らがなってしまったその衝撃はいかほどだっただろうか・・・。
私にはわからない。
また、彼がどうしてあの時、あんなことをしたのか理解できなかった。
以前の彼だったならば、絶対に起きなかったことだ。
そこから考えると、恐らく彼の戦いたいと言う欲求が、彼を変えてしまい、彼をあんな行動に走らせたのだろう。
今となっては、それも推論でしかない。
何故なら、彼の心理を知るのは彼以外ありえないし、その彼はもういないからだ。
あれから、彼は消えてしまった。
あの時、固まったままの私をおいて彼は姿を消してしまったのだ。
今の私には、彼のあの歪んだ顔が脳裏に焼きついて離れない・・・。」
俺はそこまで読んでふと気付いた。
(ん?インクが違う・・・・)
そこ以前に書かれたものとそこから先に書かれたもので使われているインクが違うのだ。
恐らく、書かれた時期が違うのだろう。
俺は改めて、手帳を読んでいった・・・。
「彼が姿を消してから、しばらく経った。
蜃都では、最近謎の辻斬りが出没していた・・・。
私には直感でわかった。
・・・・彼だ・・・・。
人斬りの感覚は一度覚えたら、止められないと言う。
彼もその魔力に取り込まれたのか・・・
だとするならば、彼を止めるのは私しかいない。
彼が人を斬ったあの時、私が何かしてれば、あるいは止められたかもしれない。
もっと前、まだ不透明な予兆を感じていた時に、彼に忠告しておくべきだったかもしれない。
それ自体何も意味を持たない『かもしれない』の連続。
今となってはただの後悔にしかならない。
だが、その後悔の念が私を突き動かしていた。
或いは・・・私が彼をもしかしたら、過去の彼に戻せるかも知れない・・・そういう想いがあったのかもしれない。
ともかく、私は彼を捜し求めた。
そして・・・今日、私は彼の寝床をつきとめた。
これから、私は彼を止めるために、戻すために、彼に会いに行く。
正直・・・彼と会って穏便に済むとは思っていない。
私はこの続きを書けなくなるかもしれない。
よって、書けることは全て書いておこうと思う。
彼は強さ自体を求めるがために、孤立してしまった。
強さのみが存在意義であったために、狂ってしまった。
強くなること自体は悪くない。
これを読む前途ある者へ、願わくば護るもののための強さを・・・
彼のような人間を増やしてはならない・・・・。」
手記はそこで終わっていた。
つまりは、これを書いた人間は帰ってこなかったのだろう。
もしかしたら、別の可能性もあるが・・・
まぁ、どうでもいいことだ。
少しだけ、彼ら二人がどうなったかに思いをはせていたが、同時に心に浮かぶこともあった。
(強さに溺れる・・・・か・・・・)
「よくある話だ・・・」
気付けば外は暮れかかっている。
俺は静かに手帳を閉じると、その朽ち果てた空家を出た。
これからも、あの手帳はあそこに置かれ、誰かに見られるだろう。
それを見て、何を感じるかはその個人の勝手だし、俺には何の興味も無い。
そう、ちょっとした寄道・・・ただそれだけさ・・・・。
完
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